「村上RADIO」をご存知ですか?
作家の村上春樹さんが DJを務めるラジオ番組で、2018年8月から隔月で放送されています。
ジャズやクラシック、そしてロックにも詳しい小説家で、作品にも多くの音楽が出てきます。小説を読んで音楽を聴きたくなった人も多いのではないでしょうか。
世界的な小説家ですが、公の場所にはほとんど姿を見せないことでも有名です。(特に日本では)
なのに今回は「ラジオでDJをする」というんですから、ファンとしては聴き逃せません。
先日放送された、第6回の内容をまとめました。
番組概要
『村上RADIO~The Beatle Night~』
放送日時: 2019年6月16日(日)19:00~19:55(TOKYO FM)
※FM山形 20:00~20:55 / FM沖縄 21:00~21:55
提供: DNP大日本印刷
※2019年6月23日まで、radikoのタイムフリー機能を使って聴くことができます。
追記:隔月で放送される番組の前後に以前の番組が再放送されるので、そのときに聴くことも可能です。
もくじ
第6回のテーマはビートルズ
今回のサブタイトルは、The Beatle Night。
ビートルズのヒットソングのカバー曲特集でした。
カバーとは
他のアーティストの楽曲を演奏することです。
同じく他人の曲を演奏することをコピーともいいますが、こちらの場合は「譜面をそのままの演奏すること」という意味が強いです。
対してカバーとは、演奏する本人の個性が表現されているという意味が含まれます。
そのためカバー曲のなかには、オリジナルの演奏とまったく違うテイストの演奏も少なくありません。
人気アーティストの曲には多くのカバー演奏が存在しますが、もちろんビートルズも例外ではなく、というより、ビートルズほどたくさんのアーティストにカバーされているグループはいないと思います。
世界中のアーティストがビートルズの曲を演奏しています。
星の数ほどある「ビートルズのカバー曲」の中でも、村上春樹さんのお気に入り11曲が紹介されました。
村上春樹とビートルズ。
「初めてビートルズの曲を聞いたのは14歳」と村上さんはラジオで話しています。
米軍放送のFEN(Far East Network)で『プリーズ・プリーズ・ミー』を聴いて「これはすごい」と思った。何がどうすごかったのかは(当時も、そして今でも)わかりません。
サイトより引用
でも「今までになかった響きの音楽だ」ということは感じたし「これから新しい時代が始まるんだ」とワクワクしたそうです。
リアルタイムでビートルズを聴いた当時の若者たちの多くが、そんなふうに思っていたのではないでしょうか。
そこまで好きじゃなかった?
少年期から音楽好き(レコード収集など)として知られる村上春樹さんですが、
ビートルズのレコードを自分のお金で買ったことはなかったそうです。
ビートルズの音楽はもちろん好きだったけど、わざわざ買わなくても、ラジオで毎日がんがんかかってましたから。そのせいで、ビートルズのヒット・ソングはよく知っているけど、ラジオではかからないマイナーな曲はあまり知らない、という状況が生まれました。
サイトより
ジャズのレコードを買い、ジャズ喫茶に通って、当時からオペラなんかも聴きに行っていくような「嫌なガキ」だったそうです。
30歳半ばでビートルズを再発見⇒「ノルウェイの森」を書くまで
村上春樹さんは30歳で「風の歌を聴け」で小説家デビューする前は、ずっとジャズ喫茶の経営をしていました。
ずっと好きだったジャズを仕事にしたわけですよね。
その仕事を10年近く続け、それから小説家になった。
それまでジャズ漬けの生活だったので、しばらく「ジャズはちょっといいか」という気分になり、ロックやクラシックばかり聴いている時期があったそうです。
その後は日本を離れ、「常駐的旅行者」としてヨーロッパなどで暮らすようになります。
常駐的旅行者とは
観光客のように短期的ではなく、ある程度長く滞在するが、腰を据えて住むというほどではない、住人(常駐的生活者)と旅行者の中間的な存在だった自分の立場を「常駐的旅行者」と「遠い太鼓」で表現しています。
村上春樹さんがヨーロッパ滞在中のことを綴ったエッセイ集。今読んでも面白いです。
ヨーロッパ滞在の最初に暮らしていた、ギリシャのスペッツェスという島で「何もせずぼーっとしたり、のんびり釣りをしながら」過ごしていた。
音楽を聴く手段はカセットのウォークマンだけ。それでたまたま持参していたビートルズの「ホワイト・アルバム」を繰り返し聴いていたそうです。
それが「不思議なくらい心に沁みて」、長編小説「ノルウェイの森」を書くきっかけになったと話しています。
初期のヒットソングに絞った理由
今回の「The Beatle Night」、選曲はビートルズ初期のヒットソング限定です。
具体的にはアルバム「ラバーソウル」以前に発表された曲だけ。
アルバムにして6枚、年代は1963~1965年ということになります。
ちなみに
ビートルズの全活動期間は
- 8年間(1962~1969)
- オリジナルアルバムは全12枚
12枚のうち6枚、つまり「ビートルズ前期」からの選曲となります。
年代を絞った理由について、村上さんは「あまりにもヒットソングの数が多いから」と話しています。
確かにビートルズには名曲が「星の数ほど」あるので、活動全期間を対象にしてしまうと、選びきれなさそうです。
(6枚から選ぶのだって相当迷うと思いますが)
初期ビートルズの魅力
一般的に言って、ビートルズの評価が高いのは『ラバーソウル』以降の曲です。
後期以降の曲は歌詞も深く(ドラッグの影響という説もあります)、コード進行も洗練されています。
ちなみにビートルズはこの時期辺りから、ライブ活動をやめてレコーディングに専念するようになります(ツアー・コンサートは1966年8月で終了)
今なお世界中のバンドやアーティストに影響を与え続けているビートルズですが、その対象は主に「後期(ラバーソウル以降)」の楽曲といっても差し支えないと思います。
今回の選曲された範囲とは反対ですね。
「でも」と、村上さんは言います。
でも初期のビートルズの音楽には、“大きく息を吸い込んで吐いたら、それがそのまま素敵な音楽になっていた”みたいなナチュラルな感覚があります。
サイトより引用
ぼくなりの捉え方ですが、『ラバーソウル』以降のビートルズは「神格化されたアーティスト」になってしまった印象があります。
それに比べると、『ヘルプ!』までのビートルズには「60年代の人気バンド」と呼べる、「等身大の親しみ」が持てる存在だったんだと思います。
オンエアされたビートルズカバー曲
今回紹介されたビートルズカバー曲は11曲。
曲順は、オリジナル曲が収録された年代順に(だいたい)オンエアされています。
ポイント
①『Please Please Me』から3曲
(I Saw Her Standing There、Please Please Me、Do You Want to Know a Secret)
②『With The Beatles』から1曲
(All My Loving)
③『A Hard Day’s Night』から2曲
(And I Love Her、Can't Buy Me Love)
➄『Help!』から2曲
(You've Got To Hide Your Love Away、Yesterday)
⑥『Rubber Soul』から1曲
(Norwegian Wood)
⓪『Past Masters』から2曲
(From Me to You、She Loves You)
※〇の数字は発表順。
4枚目の『Beatles For Sale』はカバー曲メインのため、今回の選曲はなし。
⓪の『Past Masters』は公式アルバムに未収録の曲を収めたアルバムで、バンド解散後(1988年)に発表。
おそらく趣向を凝らして曲順にこだわるよりも、さっぱりと年代順に並べた方が、かえって曲の良さが伝わる、というような判断があったのではと(勝手に)想像します。
その中で、ぼくが気になったものを村上さんのコメントと一緒に抜粋してみました。
Tu Perds Ton Temps(Please Please me)Petula Clark
1曲目は、カナダ人歌手のペトゥラ・クラークがフランス語で歌う「プリーズ・プリーズ・ミー」。
フランス語のタイトルは「Tu Perds Ton Temps(チュ・ペル・トントン)」で、意味は「それは時間の無駄よ(You are wasting your time)」
原題は「Please Please me」なので、意味が変わってますね。
当時はみんなビートルズの曲を、好き勝手な歌詞をつけて適当に歌っていたんだそうです。
初期のビートルズの曲は、みんな勝手な歌詞をつけて、適当に歌っていたんです。あとになると管理が厳しくなりますけど。
サイトより引用
I Saw Her Standing There(Little Richard)
リトル・リチャードがカバーした「アイ・ソウ・ハー・スタンディング・ゼア」
ビートルズのメンバー(とりわけジョン・レノン)はリトル・リチャードのファンでした。なので彼が自分たちの曲をカバーしてくれたのは嬉しかったと思います。
作曲したのはポール(マッカートニー)ですが、ベースのリフ部分は、チャック・ベリーのある曲からそのままパクったと、彼はあとになって告白しています。
いいんです。みんな多かれ少なかれ、最初はパクるんです。そういえば、ビーチボーイズだってチャック・ベリーの曲からけっこうパクってますよね」
サイトより引用
And I Love Her(Sarah Vaughan)
ポール作曲の美しいラブソング。カバーしているのは「3大女性ジャズ・シンガー」の1人としても知られている、サラ・ヴォーンです。1981年発表のアルバムより。
演奏しているバックメンバー、ロックバンド「TOTO」の中心メンバーなので、普段のサラ・ヴォーンとはだいぶ感じが違っています。
この曲でサラは“And I Love Him”って歌っていますが、コーラスは“And I Love Her”って歌ってます。どうでもいいことかもしれないけど、けっこう気になりますね。
サイトより引用
You've Got To Hide Your Love Away(
John Pizzarelli)
原タイトルは「You've Got To Hide Your Love Away(君は愛を押し隠さなくては」です。
当時の日本語のタイトルは「悲しみはぶっとばせ」、1960年代風というか、すごい言語感覚ですよね。
サイトより
ビートルズの演奏でヒットした『ベートーヴェンをぶっ飛ばせ』もあります。
当時の彼らはいろんなものを片っ端からぶっ飛ばしていたんですね(村上さん)
Yesterday(Marianne Faithfull )
ポールが歌う「イエスタデイ」。この曲は当時の日本でもすごい流行ったそうです。
ラジオを付けたら「イエスタデイ」という状況だったとか。
「もう一生この曲は聴かなくてもいい」と当時の村上さんは思っていたそうです。
いくら良い曲でも、来る日も来る日も聴かされたら嫌になる気持ち、わかりますね。
そんな村上さんでも、マリアンヌ・フェイスフルが可憐な声で歌う「イエスタデイ」はときどき聴きたくなるとのこと。
ぼくはこのバーション、ラジオで初めて聴きました。確かに良いですね。
今回の最後の言葉
今日の最後の言葉。
ちょっと長いけど、あるインタビューでのポール・マッカートニーの発言です。「みんなは、ジョンにはハードなエッジがあり、僕のエッジはソフトだと決めつけている。
長年そう言われ続けてきたもので、そういうものかと僕も思っていた。
でも、妻のリンダは言うんだ。『あなたにはハードなエッジがある。ただそれが表面に出てこないだけよ』って。
そのとおりだ。僕はそうしようと思えば噛みつくこともできるし、しっかりハードな一面を持っている。
また彼女は言う。『そしてジョンにはとてもソフトな一面があったわ』って。そうなんだ、ジョンのそういうソフトな面が、僕はすごく好きだった」
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