レビュー

【書評】橘玲『上級国民/下級国民』の要約と感想。

2019年8月に発行された、橘玲さんの著書『上級国民/下級国民(小学館新書) 』 を読みました。

 

『言ってはいけない(新潮新書、2016) 』 あたりから橘玲さんの本はよく読んでいます。

この本もかなり過激な内容になっており、不愉快に感じる人もいると思われます。

 

本書の主張の中には納得できかねる部分もありますが、全体的に鋭く「誰も言わないこと・言えないこと」が書かれた本だと思います。

やっぱり本当だった。

いったん「下級国民」に落ちてしまえば、「下級国民」として老い、死んでいくしかない。幸福な人生を手に入れられるのは「上級国民」だけだ──。これが現代日本社会を生きる多くのひとたちの本音だというのです。(まえがきより)

バブル崩壊後の平成の労働市場が生み落とした多くの「下級国民」たち。彼らを待ち受けるのは、共同体からも性愛からも排除されるという“残酷な運命”。一方でそれらを独占するのは少数の「上級国民」たちだ。

ベストセラー『言ってはいけない』シリーズも話題の人気作家・橘玲氏が、世界レベルで現実に進行する分断の正体をあぶり出す。

Amazonより抜粋

 

本書の概要と感想です。

 

もくじ

上級国民・下級国民とは?

まず最初に目を引くのは、タイトルにもある「上級国民」と「下級国民」という言葉。

「上級国民」とはエリートやセレブといった「上層(上流)階級」とはニュアンスが違います。

「エリート」や「セレブ」は努力して実現する目標であるのに対して、「上級国民/下級国民」は個人の努力が効かない冷酷な自然法則のようなものとして捉えられている、と本書では観察されています。

 

まえがきでは、直近に起きた87歳による自動車暴走事故を引き合いに出しています。

写真:朝日新聞デジタル

 

2019年4月池袋の横断歩道で3歳の女の子と母親がはねられて死亡。運転していた元高級官僚の87歳男性は逮捕されなかった。

 

この時期にネットで飛び交ったのが「上級国民・下級国民」という言葉です。

たまたまその2日後、神戸市営バスで2人がはねられて死亡する事故が起き、その運転手が現行犯逮捕されました。

池袋の(事故を起こした)男性が逮捕されず、マスコミが”さん”づけで報道しているのは、元高級官僚が『上級国民』だからだ。

神戸のバス運転手が逮捕されたのは『下級国民』だからに違いない。

 

という噂が広まります。(逮捕されなかったのは高齢のうえに事故で骨折して入院していたからと報じられています)

本書はそこに端を発しているようです。

 

日本が貧乏くさくなった平成時代

日本の近い過去を振り返ったとき、平成の30年間で起きたことは「日本がどんどん貧乏くさくなった」とまとめられています。

主な要因は、1人あたりの名目GDPが世界の中でトップから下位に滑り落ちていったことです。

対して他の新興国(中国・インドなど)がゆたかさを大きく伸ばしました。

日本に旅行する外国人が増えているのは、アジア人にとって日本が「安く手軽に旅行できる国」になったからです。

 

まず、この「不愉快な事実(ファクト)」と直視しなくてはならないと著者は言います。

 

世界でいちばん会社を憎んでいる日本人

 

日本が貧乏になった理由。

それは「日本の労働者は生産性が低いから」のひとことで説明できてしまいます。

生産性が低いとは、「たくさん働いても少ししか結果が出ない」ことです。

日本のサラリーマンは世界で最も長時間労働をしています。 (15~64歳の男性で)

にもかかわらず、1人あたりが生みだす利益はアメリカの3分の2しかありません。

 

日本のサラリーマンは世界でいちばん仕事が嫌いで会社を憎んでいるけど、世界でいちばん長時間労働していて、それにもかかわらず世界でいちばん労働生産性が低い。

これがかつての経済的大国・日本の「真の姿」である。(本書より)

 

不景気でも守られた正社員

 

日本の生産性が低い理由は「競争性のなさ」「不合理な労働システム」でしょう。

「バブル崩壊で雇用破壊が起き非正規労働者が増えた」という通説には見逃されている”死角”があります。

それが、中高年(団塊の世代)の正社員率です。

 

バブル崩壊時から若い男性の正社員が減り、代わりに非正規労働者が増えました。1992年と2007年を比較すると、その差は3倍です。

いわゆる「ロスジェネ(ロストジェネレーション・失われた世代)」と呼ばれる世代です。

比べて、中高年の非正規率はバブル以後もほとんど変わっていません。

 

これを当たり前だと思いますか?

 

橘さんはここに警鐘を鳴らします。

 

バブル崩壊以降の不景気で雇用が破壊されたのは、若者と女性だけなのです。

 

就職氷河期の世代で非正規労働者やフリーターが増えました。

起業が新規採用数を大幅に削ったからです。

不景気で専業主婦の多くが働くようになりましたが、正社員のカベは高い。

 

窮地に追いやられているのは若者と女性の労働者で、その裏には「あまりダメージを食らっていない中高年のサラリーマン」の存在があるのです。

 

バブル以後の25年間で起こったことを、橘玲さんは

「若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで、中高年(段階の世代)の雇用を守ることだった」と結論しています。

 

「親世代の雇用を守るために子ども世代が犠牲になった」という構図がある。

「守られた”おっさん”の既得権」(本書より引用)に言及する人が少ないのはなぜなのか疑問です。

 

令和は「団塊世代の年金を守る」時代になる

 

若者の雇用を奪ってきた団塊世代が定年を迎えた令和の時代になり、日本の雇用は回復するのでしょうか?

残念ながらそうは進まないようです。

平成が「団塊の世代の雇用(正社員の既得権益)を守る」30年だったとするなら、令和前半は「団塊の世代の年金を守る」ための20年になる以外にありません。

本書より

団塊世代の呪いは続きます。 

 

平成で日本が「貧乏くさく」なった理由が、バブル以前(団塊世代)の正社員の既得権益を守って、若者に割を食わせたからです。

令和では団塊世代の「年金を守るため」に若者が犠牲になるだろう、と本書はデータを基に推測しています。

団塊の世代は人数が多い(70歳の人口は10歳の人口の2倍)です。

そして、その多くが選挙に行くため、政治家にとって最大の票田(投票を集められる場所)なのです。

だからこそ、日本の政策は彼ら優先で進められてきたことになります。

不景気になっても 団塊世代の雇用を守り、引退後は彼らの年金を守る段階です。

 

その裏で犠牲になっているのは、いつも若者です。

 

ヤフコメ民は何に怒っている?

 

上級国民/下級国民の分断を表す現象の例として「ヤフコメ民」が取り上げられています。

「ヤフコメ民」は名の通りヤフーニュースに(たくさん)コメントする人たちのことです。

ヤフーニュースのコメント欄をみたことがある人は多いと思いますが、彼らの投稿行動には類似性があります。

  • 中国、韓国に対する怒り
  • 被害者が不利益を被ること(加害者が権利保護を受けること)への憤り
  • ナショナリズム
  • 社会的規範を尊重しないことへの憤り
  • マスコミへの批判

 

橘さんは彼ら(ヤフコメ民)が共通して持っているのが「下級国民意識」だと言っています。

こういった現象は、例えばトランプ大統領を支持する白人層にも共通するのでしょう。

 

面白い本です。

 

ここまで前半の一部分をかいつまんで要約しました。

この後の内容も過激かつ考えさせられる内容が書かれています。

  • 「モテ」と「非モテ」の分断(part2)
  • 日本のアンダークラス
  • 男と女では「モテ」の仕組みが違う(経済資本と『エロス資本』)
  • ボボスとは?
  • エニウェア族とサムウェア族
  • リバタニアとドメスティックス

 

などなど、読みごたえがあります。

ぼくはkindleの読み上げ機能を使って3回読み返しました。

 

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読んでみることをおすすめします。

 

おわります。

 

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